月刊Stereo × Luxman の真空管ハイブリッドアンプ、実験編の最終回です。
今回は電源に手を入れてみました。
目指すは、これ↓
オントモアンプの右側で緑色のランプを光らせているオーディオ用安定化電源装置!
コンクルージョン製 PS-14VR です。14V、3Aの電源なのですが、その回路は、プリメインアンプの名機 NEC A-10シリーズで開発された「リザーブⅡ電源」を採用しています。
理屈は、電灯線の単相交流を整流したときに生じる正弦波の谷間を、位相をずらした波で埋めるという、絵で描くとわかりやすいのですが、言葉で言われても、ちょっとどういう仕組みなのか悩んでしまうような、とにかく凝った高品質電源です。これは以前、このブログでも紹介しました ステレオ時代誌企画の A-10SGと一緒に購入したものです。便利なことに、今回のオントモアンプにはジャックが同一で、そのまま刺さったため、試したところ…。
空間再現、ドラムのキレ、ボーカルの深みとも、何段も飛び越えて次元が違いました。
立派な電源をつないだのだから当たり前と言えば当たり前とも言えるのですが、逆を言うと、このオントモアンプにはそれだけのポテンシャルがあるということです。これを引き出してみようというのが今回の実験です。
つまり、電源強化です。その方法ですが、外部電源を製作するか、充電池駆動にする方法が手軽です。
幸い、手元には、過去の実験で使ったジャンクコンデンサがいくつか転がっています…が、このオントモアンプの手軽さと小型軽量は維持したい。付属のアダプターも、SW電源にしては健闘しているような気がするので、これも活かしたい。結果、目標としたのは、付属のアダプターを使い、この小さな箱の中でやれるだけやろうというということになりました。
その前に、
予備情報として、スイッチング電源とリザーブ電源の出力波形を見てみたいと思います。
まずは、USBオシロのプローブをショートさせてノイズの具合を見ます。
このくらいの雑音が出ていますね。これは環境にも因りますが、良いのか悪いのか経験不足でわかりません。
とても安く買ったUSBオシロなので、このくらいが普通なのかも知れません。
次は付属のACアダプタ(スイッチング電源)です。
それなりにノイズがありますね。5mV/p-pくらいでしょうか。電圧のふらつきもあるようです。
負荷オープンで計ってますので実用したときとはかけ離れたノイズが出てきます。
次はリザーブ電源。
全然違います。繰り返すようですが、どちらも無負荷での測定ですので動作時の状況とは異なってきますが、ノイズ量の比較にはなると思います。
さて、用意した主な部品は次の通りです。
これは計画段階のもので、実際にはもう少し足しました。
出来上がりの回路図は、こんな感じです。
リレーAは簡易な遅延回路です。大きなコンデンサに、いきなり充電をすると、電源(トランスやアダプタ内部)に負担がかかるので、電流を抑えて充電し、端子間電圧が上がってくるとリレーAがオンになり抵抗がバイパスされるというものです。
リレーBは自己保持接続したオントモ基板をオンにするためのリレーです。当初は、リレーAがオンになった時点でオントモ回路もオンにしようとしたのですが、リレーAが思う以上に早くONになってしまい、同時にオントモ回路に給電をするとアダプタの保護回路が働いてうまくいかなかったので、充電の頃合いを見計らって、追加でつけたプッシュスイッチを押し、オンにすることにしました。(笑) 自己保持付きなので、電源を切るとOFF、電源を再投入したときには、改めてのプッシュスイッチを押す必要があります。タイマー回路や、精度のいいスイッチ回路を半導体利用で作ると製品的になりますが、これがノイズの点で有利だと思うことにしました。一手間かかるのも、前時代的でよいですし…。
(動画をアップしておきます↓)
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電源投入シーン 追加の基板の接続は、オントモの基板パターンをカットして給電点をもうけます。
ちなみに、この線のつなぎ方、コンデンサ並列の方法など、いろいろなことで音質が変わりますが、スペース的な制約が多く、必ずしも思ったようにいかないのがつらいところです。それでも一応、思うところから思うところへ配線していきます。
ドライバ段とパワー段にそれぞれ抵抗を介して電源供給されていますが、その抵抗の一次側に直接入るようにしました。ちなみに、この2本の抵抗は、スイッチング電源の弱点を抑える方向で、なかなか素晴らしい仕事をしているような気がします。
最後は高域を補償するためのコンデンサを、聴感で足します。ケミコンだけだと、パワーバンドが下ぶれしがちなので高域の出やすさを調節するわけです。
おもしろいのは、同じ容量でも、コンデンサによっていろいろな音色が出るところでしょうか。キリッとさせたければ積層セラミック、朗音を増すならケミコンか、今回のようにMPオイルコンあたりが、今回のオントモアンプには良いようです。もちろんスピーカーなどの外部機器によっても違いますので、あくまでも我が家での場合です。
聴感は、素子をつなぐ場所によっても変わりますが、コンピューターでシミュレーションするようなものでもないのでしょうから、もう自分勝手にいろいろとつないでいきます。付けたり外したり、配線もあちこちつなぎ直すので、半田もモリモリです。手本にはなりませんので悪しからずです。(お見せできません。笑)
なお今回、自分は朗音を増す方向で選びました。
増設基板をインストールしたところは、こんな感じです。Lアングルは指で曲がるようなモノは避けた方が無難です。今回、基板の穴が合わず、右下の穴は針金で止めていますが、こういうのも避けた方が良いです。(左下は、ボルト止めしてます。言い訳です)
万が一、シャーシと基板の裏が触れると、えらいことになります。
黒いケミコンの左上、銀色のコンデンサはビタミンQでよく聞くトウイチ製。MPオイルコンです。(廃番品) ジャパニーズ・ヴィンテージかも知れません。1μFで、別の目的で買った物ですが、いろいろ試しているうちに行き着きました。給電点から遠めにするのが朗音のコツかも?知れません。
ちなみに上から見るとこんな感じです。
試聴結果を書く前に、電源波形を見ておきましょう。
コンデンサ回路をインストール前、オントモ基板に給電中の波形は次のような感じです。
次は、基板をインストールした後の波形です。
さっきより改善されています。2mv/p-pくらいでしょうか。
ちなみに、リザーブ電源をつなぐと次のような感じです。
さすがに練り込まれた電源装置です。理想的な給電状況でしょうか。
次は、実際に音楽を鳴らしているときの電源電圧の変化(交流成分)です。
青線はmonitor900(4Ω)をつないだとき、 最大4Vくらいの出力です。(1メモリ1V)
黄線が電源ラインに響いてくる電圧変化です。こちらは1メモリが10mVです。
まずは指標にしたリザーブ電源の場合。
次は今回の改造。
善戦していますね。
さて、改造後の聴感ですが…。
正直、やり過ぎ感に、思わず笑ってしまいました。
ボーカルの太さとなめらかさが出て、ドラムもますます力強くなりました。真空管をロングプレート系にすると、ボーカルのふくらみやベースが、やり過ぎぐらいにふくらみます。ライブ的でおもしろい。朗音…といえば朗音かも知れませんが、バタ臭くなる管もあります。リザーブ電源をつなぐとすっきりした、バランスの取れた音になるので、安直な増設は安直な結果を生むのかも?しれません。それとも練り混みが足りないだけ??
いずれにしても電源に余裕が出た分、真空管の違いが出やすくなりました。(余裕と書きましたが、あくまでも抑揚がある音楽信号が前提です。ACアダプタの最大出力が上がったわけではありません)
*** まとめ ***
3回にわたっていろいろ実験してみましたが、感想としてはひとこと、「楽しい!」です。
手を入れやすい回路と、部品の配置は、副次的なものだとは思いますが、こんなにいじくり甲斐のあるキットはなかなか無いように思います。ただ部品を並べただけではない、気持ちのこもった回路だというのも、楽しさを倍加していますね。
こんな回路に触れて、電子工作や、果てはオーディオの設計に燃え上がる人が一人でも増えたら、それは楽しいことだなぁ…と思いつつ…。
次は、なに聴こう♪
リンク集
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港北ネットワークサービス株式会社(了)