月刊Stereo x Luxman のアンプの実験編(2)です。
今回は、コンデンサー転がしのレビューをしたいと思います。
(ここまでの経緯は前回を参照ください)
さて。
実験に入る前に試聴環境のご紹介です。
本機には2系統のセレクターがついているので、そこにソースを入れてます。
・レコード
SL-1200mk3+DL-103 → 東京サウンド PE-700 → AT-6A56 → OT7
今回の試聴盤は、柏原好恵「春なのに」、クイーン「ボヘミアンラプソディ」
他、久保田早紀、井筒香奈江、ディープパープル、ジャズをいくつかです。
・CD
ヤマハ CD-S1000 → モガミ2549 → OT7
今回の試聴盤は、レイドバック2018、村上紗由里「遠雷」、トリビュート・ディープパープルなどです。
・スピーカー
ベルデン 9497 → オンキヨー MONITOR 900
レコードとCDでラインを変えて、なるべく音色が合うようにしていますが、
針はシュア-やテクニカの方が面白みがあるのですが、
ひずみ感の少なさと、どんな音源もこなしてくれる安定度から103を入れてます。
CDPはキレイめで明るい音質です。
ちなみに、MONITOR 900は、モニター調のアンプを持ってくると、
ストレートな音色である一方、無難にまとまりすぎたり、ボーカルだけが走ってカンカンになることがあるという、なかなかの難敵です。SACDが聞こえてきた時代(!)の製品なので、高域は50kくらいまで謳っているのでアナログや管球アンプでも頼りになるモニタースピーカーです。
・真空管
基本は付属のもので聞いています。その後、似合うものを探っていたりしてます。
写真左から、付属管、松下、東芝(通測)、ムラード(ボックス)、テレフンケン、旧RCA(CT)、テン(CT)、シルバニアです。テンのクリアトップ以外は普通に見つかるものを選んでいます。
OT7と合わせたときの球の傾向は次の通りでした。
・付属の管 スピード感があり、活発な音です。ボーカルも良く、ギターも立つので、ロックが似合います。
・松下 ベースがすっきりしていてボーカル域にパワーバンドがあるように感じます。和物ポップスにぴったりきます。
・東芝(通測) 松下管同様にボーカル域にパワーバンドがありますが、若干タイトで、音場も締め気味です。定位もいいので、和物の几帳面な録音にもぴったりです。
・ムラード(ボックス) 落ち着いた音で、シンバルも心地よく鳴ります。ベース域が緩い感じで、ゆったり聴きたいときにいい感じです。また、ロックだと厚みが出ます。
・テレフンケン 派手さを押さえた落ち着いた音で、モニター的に聞こえます。ベースとドラムの分離がしっかりあります。ゆったり聴きたいときにいい感じです。
・RCA(CT) 華やかな音です。ボーカルもシンバルも立つ、活発な音です。ドラムも活発で、バランス良い音です。やり過ぎると、うるさくなります。
・テン(CT) RCAとは傾向の違う音で、やや平板な印象のある音です。女性ボーカルを甘く聴きたいときなどに良いです。これはクリアトップでないテンの球と同じ傾向なので、そちらでも同じ音色が楽しめます。
・シルバニア 音場の広さがある、響きのきれいな音です。スピード感があり活発で、ジャズ・ロックに良い感じです。
では、聴いていきましょう。
なお、音質の傾向は、付属のコンデンサー(ルビコン)と真空管を基準にした私感です。
1.ニチコン KA(KT)
女性ボーカルにハリ感が出ます。中高域にパワーバンドがあり、ベースがすっきり聴けます。キレイめのシンバルと小気味よいドラムが聴けました。松下、シルバニアをあてると程よくまとまりました。RCAだと、ちょっとキラキラとして軽くなってしまいました。
2.ニチコン FG
ボーカルがなめらかにつながり、特に女性ボーカルは聴き心地が良いです。はっきりとボーカル域メインで、ストリングスなどもいい感じです。低域の手当はベース域でも低いところにあり、それがボーカルを引き立たせている感じです。小口径だと低域の不足感が出るかも知れませんが、ボーカルの良さは捨てがたい物があります。RCAで攻めるのもいいですが、テレフンケンかテンで甘い香りに酔うのもいい感じです。
3.ニチコン KW
これは出力カップリングだけでの登場です。ベース域の高いところからふくらみ気味の音で、女性ボーカルは丸く、男性ボーカルは太く、ベースも太くなります。一方、ドラム(特にキック)とベースの分離が甘くなったり、埋もれてしまう傾向もあるので、使い方の難しいコンデンサです。ムラードやテレフンケンで太く攻めて、70年代ロックや、ジャズの古い録音を掛けると、趣があって良い感じです。ゆったりボーカルも魅力。どっちもU7にしては値が張る球なのですが、テンや各社ロングプレートでも、似たような傾向が楽しめます。
4.ROE(EKA)
ややタイトな音で、その分、ソースの残響成分が聞こえてきます。モニター的な音質です。そして、ボーカルの陰影が感じられやすくなります。テレフンケン、テン、東芝あたりを当て、小編成のバラードでボーカリストと向き合うのに良い感じです。
5.SPRAGUE 517D
中低域にふくらみの感じられる音で、雑味と言うべきか、コクと言うべきか、はっきり言ってロック向きです。ボーカルは若干遠くなりますが、中低域のコクが足されてハモリなどは厚みがあっていい感じです。一方で、ギター、ストリングスは際立ってくるので、コンプがきつくかかった音源でもその瞬間の主役を楽しめます。オールドロックをムラードで聴くとヴィンテージ感が増しますが、そこまでベタに組み合わせなくても、付属の球で十分に旨みが出てきます。
6.フィリップス BC
なめらかで明るい音質。ボーカルを見失わないところはニチコンFGに似ているけれど、そこまでのなめらかさはない感じで、若干暴れます。ベースは強めに出る一方、ドラムは弱めに感じられるので、穏やかな音色と言えるかも知れません。松下、東芝で、女性ポップスを心地よく聴くのに良い感じです。
7.WIMA MKS
フィルムコンデンサです。メタライズドフィルムで小型化されたものです。WIMAは音圧の影響を受けにくいのか、音が暴れたり濁ったりしにくいのが便利です。音質はなめらかで、ボーカルも厚みが出ます。ひずみ感が少なく、聴きやすく、ストリングスも尖りにくいといいことづくめですが、シンバルなどは電解モノに比べて、ニュアンスが出る一方、弱めになる傾向です。ただし、それがウィークポイントにならないところが素晴らしいところで、純粋に球の個性を楽しみたいときは、これに限るような気がします。
8.VISHAY 1813
従来型のフィルムコンデンサです。音質傾向は、シンバルやドラムははっきりしています。ベースのキレ、再現も良いのですが、軽めの音になります。若干、音場を作る感じで、ストリングスなどの響きもきれいに出ます。ただし、振動や音圧の影響を受けやすいようで、音量を上げていくとボーカルにピークが出たりするので、どちらかというと器楽向きかも知れません。…と書くと、とても使いにくそうですが、逆手にとってみるのも楽しそうです。また、振動モードは各環境で異なるので、一概に使いにくいと言えないのがおもしろいところです。(特に今回は端子付きですし……)
以上、コンデンサ転がしのレビューでした。
今回使ったコンデンサは、数十円から数百円の価格のもの、いろいろ揃えて試せるのが楽しいですね。なお、今回のコンデンサは、秋葉原のガード下と、ラジオデパート内で仕入れましたが、だいたいが通販で購入可能です。オントモアンプをお持ちの方、今回のアンプは高電圧の部分がないので、一つ二つ、試してみると愛着が増すかも知れません。
それにしても、コンデンサにはいろいろと個性がありますね。逆に、あまり個性の強いものは使いにくいという声も聞こえてくるところでもありますが……。このあたりに、オーディオのおもしろいところが潜んでいるのかなぁと思いつつ、いろいろな方が、カスタマイズの魅力にはまってくると楽しいなぁと思っています。
さあ、次は??と考えてしまうのですが、
次は、電源あたりでしょうか。実は、付属のアダプタ以外に、手持ちの3Aの電源(トランス式安定化電源)をつないでみたのですが、ボーカルのつややかさが出て、また、ひずみ感が減って、この辺もいろいろ試せそうかなぁと。また、ボンネットも、開けっ放しの時と、閉めたときで、けっこう音が変わるので、その辺のこともおもしろいかも知れません。